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姫烏頭

ヒメウズの花(2003/3/20)横浜市緑区

春先の野原に咲く野草の一つにヒメウズ(Semiaquilegia adoxoides)があります。
同じ時期、同じ場所に咲くこともあるオオイヌノフグリやホトケノザなど比べるといかにもジミ〜な植物ですが、ジミヘン植物(地味だけどよく見るとへんてこな植物。例えば、カラスビシャクとか…(^^;)ではありません。
よくみるとなかなかの気品のある花です。キンポウゲ科植物に共通の気品を感じます。


ヒメウズの花

ヒメウズの花は、多くのキンポウゲ科植物と同様に萼が花弁状になっています。内側の黄色い部分が花弁です。大きさは5〜7mm程度しかありませんが、けっこう目立ちます

ヒメウズの花
ヒメウズの花(2003/3/20)横浜市緑区

ヒメウズは以前はオダマキ属(Aquilegia)とされていましたが、距がないことから現在は一属一種のヒメウズ属(Semiaquilegia)とされています。(*1

距がない、と書きましたが、正確にはごく短い距がある、というべきでしょう。 右の写真を御覧下さい。目立たないとはいえ明瞭な膨らみがあります。花を解体して見るとこの部分は明らかに袋状になっています。

(*1)中国原産のフウリンオダマキ(Aquilegia ecalcarata)という植物があります。最近は山野草系の園芸植物としても流通しています。一般のオダマキのような長い距を持たないことが特徴です。そのためフウリンオダマキもヒメウズ属とされることもあるようです。この辺の事情はどうもややこしそうなのでまた後ほど調べてみたいと思います。


ヒメウズの葉

ヒメウズの葉の色や質感はやや独特で、他の草の間にあっても目立ちます。キンポウゲ科としては標準的な形態ですが、イネ科やキク科やマメ科の雑草に混じって生えていることが多いのでかなり目立ちます。茎や若い葉は赤みを帯びています。また、葉の縁部分もほんのりと赤くなっており、輪郭線を描いたように見えます。

ヒメウズの葉
ヒメウズの葉(2003/3/20)横浜市緑区
ヒメウズの葉
ヒメウズの葉(2003/3/20)横浜市緑区

ヒメウズの名前

烏頭(ウズ)というのはトリカブトのことです。全体がトリカブトに似て小型なので姫烏頭と名付けられたようです(花は似ていないが)。

ヒメウズの根塊
ヒメウズの根塊(2003/3/20)横浜市緑区

根塊はたしかによく似ています。烏頭は漢方薬としても有名ですが、ヒメウズも薬用として使われるのでしょうか。
調べてみると、確かに漢方では天葵子(てんきし)という名前でヒメウズの根塊が使われています。(ここに(簡体中国語)詳しい内容が書かれています。)

ところで「天葵」をキーワードにして中国サイトを検索すると、「紫背天葵」という名前が多く出てきますが、これはキク科のスイゼンジナ(Gynura bicolor)のことです。(ベゴニアを指す場合もあるらしい)
ちなみにヒメウズの方もやはり地域によっていろいろな別名があるようです。例: 紫背天葵、千年老鼠屎(根塊をネズミの糞に見立てたのでしょうか)、菟葵、小烏頭(これは日本語のヒメウズと同じ意味ですね)。
日本の方言では「チンチンバナ」(^^; というものがあります。


ヒメウズの分布

私はなんとなく雰囲気からヒメウズは北方系の植物だと思っていました。しかし日本における分布は関東以西ということでした。むしろ暖地生の植物のようです。寒さに弱いと言うより、生活型が多雪地帯に適応しにくいのでしょうか。

日本の他に朝鮮半島や中国にも分布していますが、東亜地区特産種です。日本のものは、その生息環境や薬草としての利用から考えると史前帰化植物かもしれません。

花をつけたヒメウズ
花をつけたヒメウズ(2003/3/20)横浜市緑区
ヒメウズの株
ヒメウズの株(2003/3/20)横浜市緑区

ヒメウズは関東では雑草に近い植物ですが、いわゆる「雑草」とはやや異質な感じがします。
ヒメウズは他の「雑草」ほどどこでも生えているというわけではありません。どちらかといえば林縁や明るい薮のような場所によく見られます。
草刈り・除草などによる定期的な人為的攪乱があるところに生えると言う点では他の「雑草」と同じです。しかし、見た目の雰囲気はもちろんのこと、植物としての性質も雑草とはやや異なるようです。ヒメウズは「雑草性」が低い植物だそうです。

日本では河原や道路脇の雑草となっているヒメウズですが、欧米ではロックガーデン用植物として販売されることもあるようです。
鉢植えやロックガーデンのように単独の環境で見るとなかなか存在感のある植物です。


ヒメウズと農業

ヒメウズはモモ白さび病の中間宿主!だそうです。


参考資料

Columbines: Aquilegia, Paraquilegia, and Semiaquilegia
Author Robert Nold ,publisher Timber Pr ; ISBN: 0881925888

オダマキおよび近縁属の専門書。といってもまだ発刊されていない(2003年10月発刊予定)オダマキ類に興味のある人はぜひ読むべき本(だと思う(^^;)

2002/05/23up
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